2007129

福島

 

研究室紹介

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1.はじめに

 本稿は本研究室がカバーする範囲についての紹介を行います.研究ゼミナールおよび卒業研究では概ねこの範囲から実施する人の興味や関心のある範囲でトピックスを選び実施します.とはいえ,具体的にどんな事柄をするのかがわからないと何をしているのかが理解しづらいと思うので,はじめにコンセプトを書いた後で具体的な事例について説明します.具体的な事例からの方がわかりやすいという方は「3.より具体的な事例」から読んでください.また具体的な事例から「それを理解するにはどんな項目の勉強が必要か」という目線で「2.ネットワークの役割による分割」を読んでいただければ参考になるのではないかと考えています.

 本研究室を「XX研究室」と表現すると,「コミュニケーションネットワーク研究室(CNL: Communication Network Laboratory)」となります.歴史的に見るとネットワークは電波を用いた無線通信や有線を用いた通信を母体としてスタートしています.このため,多くのネットワーク関連図書を見ると「回線交換網」とか「網制御」といった項目が出てきます.本研究室ではこのネットワークを基本的に「コミュニケーション」のためであると捉えているため,あえて「コミュニケーションネットワーク研究室」という名称を考えています.但し,ここでのコミュニケーションは

                                   

                                    機械

              機械                  機械

のいずれも含み,さらには「機械を経由した人と人」という範囲までを考えています.

 例えば,Webを考えてみると,これは「人がブラウザ(ブラウザが動いている機械)を経由してサーバといわれる機械とコミュニケーションしている」ということであり,さらにはIP電話等も「人がデータ通信網にデータを送る機械を通して相手の機械に信号を送り相手の人間とコミュニケーションしている」という捉え方をします.

 このため,物理的な現象,網制御,MPEG等の符号化技術,テレビ会議などのアプリケーション,HCI(Human Computer Interaction)といった広い範囲がその対象となります.このように広範囲にわたる分野であるため,整理しないと「わけのわからん分野」または「得体の知れない分野」となります.

 そこで本稿では整理しながら本研究室のテーマである「コミュニケーションネットワーク」が一体何を対象としているのかについて説明します.

 

2.ネットワークの役割による分割

 1章で述べたように「ネットワーク」がカバーする範囲は非常に広範囲となります.このため,仕事という観点から見ても分業・協業しなければカバーすることが出来ません.しかし,勝手に区分けしても分業・協業する相手を探すのが難しくなります.また,システムを考えても大規模システムの構築は「役割」を明確にし,機能で区切ることが大切です.

 このため国際的な団体であるISO(付録参照)がシステムの相互接続に関するモデルとしてOSI(Open Systems Interconnection)を規定されています.日本ではJIS X5003(開放型システム間相互接続の参照モデル)として規定されています.ここでは図1左側にあるように7つの階層で分割され,それぞれの層毎に機能と役割が定義されています.階層は下から順に番号が付けられ,第1層(物理層)から第7層(応用層:JIS X5003での名称)となっています.

 参照モデルは実際にシステムを組む時に参照されるもので,インターネットに接続する際にPC等で使用するTCP/IPは実装モデルとなります.図1の右側にOSIと対応するTCP/IPモデルの層を示しています.TCP/IPモデルでは物理層を明示せずにOSIの第1層と第2層をネットワークインタフェース層とする場合があります.これはTCP/IPがプロトコルを元に制定されているモデルという観点からです.ここではケーブルをネットワークインタフェースとするには少々無理があると考え,あえて物理層を第1層としています.各層で実際に通信を行う際に使用するプロトコル(通信の際の手順とデータ形式)の代表例を層の名称の右側に示しています.

 どの分野を得意とするかによっておおよそ対応する業種が決まっており,図1の一番右側に大きく4つに分類したものを示しています.

 今一度表の見方を整理すると,

              1)参照モデルを図の太い縦棒の左側,実装モデルを図の太い縦棒の右側

              2)太い縦棒を挟んで左側に参照モデルの層名,右側に実装モデルの層名

              3)縦棒より一番左側に参照モデルで定義されている各層の役割

              4)縦棒より右側の層名の右側に代表的なプロトコル

                アプリケーション層だけ目的に合わせてプロトコルを3種類に分類してます

              5)表の一番右側が層モデルのどの範囲を担当している業種

となります.すなわち,このプロトコル知っているというのをプロトコルで見つけた場合,一番右側を見ると「どの業種で使っているプロトコルを知っているのか」を知ることができ,また一番左側を見ると「どんな役割を担うために作られたプロトコルなのか」を知ることができます.

 

 

 

参照モデル

実装モデル

 

 

 

 

 

 

 

機能と役割

 

OSIモデル

TCP/IPモデル

プロトコル

業種/業態

アプリケーション間でのデータ交換

7

応用層

アプリケーション層

HTTP,SMIL(レイアウト記述言語)

SIP,SDP(セッション記述)

RTP,RTCP

 

 

 

サービス

コード変換,符号化,暗号化

6

プレゼンテーション層

 

 

伝送

ログイン,ログアウト等のセッション手続き

5

セッション層

 

 

ピア間の信頼性のあるエンドツーエンド通信,再送・輻輳制御

4

トランスポート層

トランスポート層

TCP

UDP

 

交換

 

経路選択と中継

3

ネットワーク層

インターネット層

IP, ICMP, ARP, RARP

 

 

 

データ伝送

2

データリンク層

ネットワークインタフェース層

Ethernet, PPP, X25, ATM

回線

 

 

物理的な信号の伝播

1

物理層

物理層

電気伝送,光伝送,電波伝送

 

 

 

図1 ネットワーク参照モデル(OSI)と実装モデル(TCP/IPモデル)

と業種/業態の対応関係

 

 研究ゼミナールまたは卒業研究は「将来この分野で働いてみたいな」という人が「自分に向いている分野かどうか」を試してみるという意味も持っています.このため,本研究室では,図1の一番右側に示した業種を考えながらトピックス(研究ゼミナールでの実施項目や卒業研究のテーマという意味です)を取り上げています.

 層のもう一つの特徴として,低位層であるほどC/C++といったシステム記述言語が使われており,上にいくにつれてJavaPHPさらにはRubyといったLight Languageと言われる言語が利用されています.共通する要素は「設計」です.また言語よりも装置に依存するネットワーク設計もあり,主に機器の設定やその特性計測および評価といった内容があります.これはWebサーバにおいても負荷テストといった評価ではあまり言語を使用しません.但し,しっかり設計が出来れば,それを表現する一つの方法として「言語」があるので,これを機に言語で表現出来るようになるというのも一つの選択でしょう.

 ネットワークで生じる様々な現象は目では見えないことと,実際に試験することが困難な状況もあるため,ネットワークシミュレータもあります.シミュレータでは「状況」を自分で定義出来ることと「何度でも同じ状況を産み出せる」という特徴があります.

 

3.より具体的な事例

 図1でネットワーク分野のOSI規格(参照モデル)とTCP/IPモデル(実装モデル)の対応とおおよその業種との対応がわかったかと思いますが,具体的に何をするのかさっぱりわからない人が多いと思うので,業種毎に具体的な内容を整理します.

 表1に業種とそれぞれの分類さらに各分類の具体的な事例を示します.ここで示したものが全てというわけではなく,抜けているものがたくさんあります.代表的な事例としてこんなものがあるという具体的な事例の一部紹介となっています.

 但し,表1に示した「分類」はネットワークという観点からの分類であり,情報における一般的な分類とは異なります.表1中のTimeとは「時間的に変化することに意味を持つ」という意味であり,ネットワークとして「時間管理」または「同期処理」が必要であることを意味します.またTime Lessとは「時間的な変化はない」事を意味します.簡単な例でいうと,静止画はTime Lessであり,動画はTimeとなります.音響メディアでは「静止画」がないのでTimeとなります.また,非同期とは送信側と受信側が時間的にずれても問題ないことを意味し,「同期」とは送信側と受信側が時間的にずれることが問題になることを意味します.簡単な例で言うと,録画された番組を見るならば見る人の好きな時間に見ればよく,録画の元となった放送時間と同じでなくても問題ないという場合を非同期といい,「ぼけとつっこみ」の絶妙な間が両者で重要な場合を同期と言います.

 表の見方ですが,左端に図1の右端に示した業種の分類(サービス,伝送,交換,回線)を示しています.交換とは「回線交換制御」を意味しており「交換機により回線を制御する」という回線交換形式の名残から交換と書いています.各業種にはいつくかの項目があり,それを表1では「分類」として書いています.例えばサービスの場合,情報メディアが言語メディア,画像メディア,音響メディアによって情報を表現していることと,これらの分類の組み合わせまたはその他メディアに分類して整理しています.具体的な事例は,その分類毎にどんなものがあるかを示しています.例えば,業種「サービス」の分類「言語メディア」の具体的な事例として「レイアウト記述言語に基づきかかれたドキュメント(HTML(Hyper Text Markup Language)で記述されたファイルという意味です)をクライアントからのリクエストによって送信する事例」として「Webサーバ」があるというように見ます.このため,具体的な事例の中に興味・関心のあるものを見つけた場合,その左側にある分類を見ることでどういう事柄に関連するのかを知ることができ,さらに左側の業種を見るとどの業種になるかを知ることが出来ます.図1と併用することで,具体的な事例からどの層を勉強すればよいかを知ることができます.

 但し,表はあくまでもネットワークという観点から分類したものであるのです.具体的な事例で空欄になっている箇所はどの事例を挙げるべきか決めかねた箇所です.この表に記載されていない事例も数多くあることと,メディアレスまたは複合メディアという捕らえ方もあるので,一つの整理例としてみてください.

 一般にネットワークというと即時通信のみを考える人もいるかと思いますが,ネットワークにとって大切なことは「伝わること」であるため「記録物」は「時間的に遠く離れた間の通信」と捉えます.これが「ストレージ系」の回線となります.この概念はユビキタスで頻繁に登場するICタグの意味を理解する上でとても大切です.ネットワークでは例えばIPではIPデータグラムという「どのビットが何を意味する」を規定しています.ここでは限られたビット数の中に,通信に必要なデータと伝送対象であるデータを定義しています.ICタグも限られたデータを記録すること,ICタグとして物理的に移動すること,移動先でICタグリーダにより読み出せること,の機能を持っています.すなわち,データグラムをICタグと見立てることで,ICタグというデバイスをあたかもパケットのように捉えることが出来るのです.こうすることで従来「配線がなければ出来なかったネットワーク」を物理的に拡張することが可能となるのです.

 また有線の光回線は光ファイバ等の光学信号を使用した伝送であることがわかるかと思いますが,無線の光学というと首をひねる人がいるかもしれません.これは例えば照明の光が交流電流で照らされていることを考えると,交流電流の周波数(西日本では60Hz)で変調されていることから,それをキャリア信号とした信号変調を行うことで「光の当っている箇所に情報を伝送する」という事を考えているものです.表1には示していませんが,回線の無線の中には「空気の流れ」というのもあり,空調機から流れる風を変調することで「風の届く範囲にのみ情報を伝送する」というネットワークもあります.

 

表1 業種・業態の具体的な事例の対応関係

業種・業態

分類

具体的な事例

サービス

言語メディア

Webサーバ

Blogサーバ

SNS

データベースサーバ

版・プロジェクト管理サーバ

スケジュール管理サーバ

メールサーバ

掲示板サーバ

検索エンジン

画像メディア

Time Less

画像認証サーバ

画像コマンド

 

Time

モーション認証

モーションコマンド

 

音響メディア

話者認証サーバ

音声コマンド

自動採譜

音声通信viaネット

携帯電話viaネット

ネットラジオ

画像(Time)+音響メディア

非同期

動画配信サーバ(オンデマンド配信)

e-Learning with Video

文化伝承

同期

動画配信サーバ(ライブ配信)

遠隔授業

遠隔会議

その他メディア

臨場感・一体感通信

メディア変換サーバ

HCI・知的システム

生体認証サーバ

メディカルサーバ

福祉システム

防犯システム

流通システム

 

伝送

高能率符号化

MPEG

VRML

MIDI

暗号化

 

 

 

コード変換

 

 

 

交換

回線交換

 

 

 

パケット交換

ATM

負荷制御

経路制御

変換

網統合

経路制御

 

回線

有線

光回線

電気回線

 

無線

電波

光学

音響

ストレージ系

ICタグ

半導体ストレージ

磁気ストレージ

 

 さらに具体的な事例をピックアップすると次のような項目があります.但し,担当する人の興味や方向性または就職活動分野によって具体的にどれが実施されるかは変わります.また,このリストも完全なものではなく,抜けや不足が多くあります.

 

              Webサーバ

                            レイアウト記述言語で書かれたファイルのサーバ

              ネットラジオサーバ

                            インターネットラジオを提供するサーバ

              動画配信サーバ(オンデマンド配信)

                            バッファリング技術が使えることを前提とした動画配信サーバ

              動画配信サーバ(ライブ配信)

                            リアルタイム性が求められる動画配信サーバ

              情報共有用サーバ

                            種々の情報を提供・利用するためのサーバ

              版・プロジェクト管理サーバ

                            プログラム開発等でのソースプログラムおよび仕様の版管理および共有

              スケジュール管理サーバ

                            スケジュール調整用

              メールサーバ

                            メンバ間の連絡用

              E-Learning with Video

                            ビデオコンテンツを学習という視点で提供するシステム

              遠隔授業

                            双方向・リアルタイム性を含む1対多通信用システム

              遠隔会議

                            双方向・リアルタイム性を含む多対多通信用システム

              リソース管理

                            ネットワークリソースを管理するためのシステム

              ストリーミングサーバ

                            FluidStreamingServerJavaソース

                            OpenH323(ITU-T H.323)

                            Mbone Tools(RTP/SDP/SIP/SAP)

                            Apple Open Project(RTSP)

              ライブ配信

                            Windows Media Encoder

                            LiveCAM(動態検知システム)

              ビデオ・オーディオ・コーデック関連

                            MPEG-1/2/4/7(?)

                            ITU-T H.26L

              サーバソフト

                            Black Jumbo DogC++ソース

                                          Web,メール,DHCPPROXY,認証

              セキュリティ

                            ハニーポッドサーバ

                            暗号用システム

                            個人認証サーバ

              ネットワークシミュレータ

                            NS2

              ネットワークOS

                            UNIX

                            Linux

                            Windows

                                          Windows Server 2003

                                                        RMS(Rights Management System)

                            TRON

                                          交換機で使用され組み込み系で一般的なOS

              データベースサーバ

                            商用データベース

                                          Oracle DBOracle社製)

                                          SQL Server (Microsoft社製)

                            オープンソース系

              プログラミング環境

                            デバッグ・テスト用ツール

                            評価ツール

                            DSPプログラミング

 

4.おわりに

 本稿はコミュニケーションネットワーク研究室(CNL: Communication Network Laboratory)が取り扱う範囲についての概説をしました.出来るだけ具体的な事例を挙げられるように作成したつもりですが,他にもたくさんの項目があるので一例としてみてもらえれば幸いです.


[付録]

・国際標準規格を決める団体と業界標準

 ネットワーク分野では,ISO(International Organizations for Standardization)という国際規格団体で規定されたOSI(Open Systems Interconnections:開放型システム相互接続)があります.ちなみに,ISOの頭文字をとるとIOSになりますが,ギリシャ語で「平等」という意味の単語に「isos」があり,これを起源としているためISOと言います.各国の標準化に関する組織が集まり規格を策定します.英数字の文字コードであるASCIIAmerican Standard Code for Infromation Interchange)で有名なANSI(American National Standards Institute :米国規格協会)もここに参加している.日本では日本工業標準調査会JISC: Japan Industrial Standards Committee)が担当しています.ISOで制定されたOSIは各国の事情に合わせて各国の規格として制定されます.日本ではJISX5003「開放型システム間相互接続の基本参照モデル」として制定されています.

 なお,電気工学,電子工学,および関連した技術を扱う国際的な標準化団体には国際電気標準会議IEC: International Electrotechnical Commission)があり,ISOIECが合同で規格化するものもある.無線通信と電気通信分野の国際規格はITU(International Telecommunication Union: 国際電気通信連合)が担当しており,無線通信部門をITU-R,電気通信標準化部門ITU-T,電気通信開発部門ITU-Dで構成されている.

 話を戻して,ISOで規定されているOSIは参照モデルといって「これに従わなければいかん」というものではありません.

 このため,その参照モデルを具体的なものにするための実装モデルがあります.無線LANの性能を表すのに使用するIEEE801.11a/b/g/nや有線LANの性能を表すのに使用するIEEE802.3(10Base-T)802.3u(100Base-TX)802.3ab(1000Base-T),さらには高速シリアル伝送規格であるIEEE1394で出てくるIEEEとは,IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.: 電気電子学会または米国電気電子学会)のことであり,アメリカに本部を持つ電気・電子技術の学会であり,各国に支部がある国際的な学会組織である.学会は大学等の研究団体だけでなく企業や政府機関が参加するものであり,提案や議論を行うための組織です.このため,IEEEで理論が提案され,実証実験が報告され,各立場からの意見が出され,標準化を目指すという流れがあります.ISOが基本的に政府機関を通しての議論であるのに対して,IEEEは基本的に誰でも提案や意見を出すことが出来るという特徴があります.このため,実装モデルの多くがIEEE等の学会を経てISO等により国際規格となります.