建築空間デザイン論 ■目的または到達目標 建築空間やインテリア空間をデザインするとき、「空間」が人間の身体や行為において、どのように現象し、意味をもつのかという問いを避けることはできません。このような問いかけは、時に論理的、そして時に詩的に問われますが、具体的な空間のデザインにおいては、その制作行為そのものにおいて問いかけているということができるでしょう。ここでは、幾人かの建築家の言葉や作品分析を通して、言葉でこのような問いかけを定着しようとするものですが、その本来の目的は、学生自身が自らの言葉で問うための手がかりを与えることにあります。そのため、「建築」をその形態的な分析や機能的なアプローチから捉えるだけでなく、人間の身体や行為との関わりのなかで意味をもつ「建築空間」として捉え、そのような意味での日本や西洋の建築空間の具体的な事例をあげながら考察します。建築空間の原型、軸線と領域、境界、開口、光と影、場所性と象徴性などがテーマとなります。 ■授業内容 ○第1回 建築空間概論 空間とは何か、について論じます。空間認知のひとつのあり方として、加齢による記憶の変化についてとくに詳しく論じます。じっさいに、みなさんにイメージマップを作成していただきます。 ○第2回 様式の空間1 空間とは何か、あるいは空間を論じることの意義などについて論じます。その後、おもにヨーロッパを中心に、建築空間がどのように変化してきたのかについて、いわゆる「様式」の観点から整理し直す作業をします。 ○第3回 様式の空間2 おもにヨーロッパの様式建築について古代から近世にいたるまで、実例を写真等で示しながら紹介し、そこに現れる空間概念について、歴史的側面、風土的側面、文化的側面から形態論、認識論、意味論、作品論、機能論、デザイン論について論じます。 ○第4回 近代建築の空間1 銀河の中から銀河の外形を捉えることはなかなか至難の業です。にもかかわらず、さまざまな現代建築について実例を写真等で示しながら紹介し、様式建築と同様に論じます。すなわち並立的視点によりモダニズムの再観察を試みます。 ○第5回 近代建築の空間2(鉄骨造について) 近代建築の大きな流れを鉄骨という新技術を軸にして論じます。また、実例を写真等で示しながら紹介し、そこに現れる技術論的空間概念のムーブメントについて概説します。 ○第6回 近代建築の空間3(鉄筋コンクリート造について) 鉄筋コンクリート造を中心に、アールヌーヴォーからバウハウス、表現主義、ブルータリズムといったモダニズム空間の大きな流れについて実例を写真等で示しながら紹介し、論じます。 ○第7回 近代都市空間(空想の空間) 建築家はさまざまなプロジェクトをいわば妄想し表現してきました。それらについて実例を写真等で示しながら紹介し、そこに現れる空間概念の特徴について論じます。 ○第8回 空間図式1(言葉の中の空間) 言葉を情報として捉えなおしたとき、そのひとつひとつあるいは全体が、ある種の記号性を帯びます。記号の海の中で、我々は互いに結合し分断し補完し合って、ひとつの空間を結晶させます。最先端の空間研究を紹介し、その意義と仕組みについて論じます。 ○第9回 空間図式2(スペースブロック) 割り切って考えれば、建築は、屋根、壁、床等により空間を切り取る技術と言い換えることができます。様式を否定した近代建築以降、建築家は空間のデコレーションよりむしろ空間自体の構成に対し心を砕いてきました。この講義では、空間をかたまりとしてとらえることによる再解釈を試みます。 ○第10回 空間認知とその応用 空間はそれ自体意味を持ちません。あたりまえのことですが、人間が空間を認知してはじめて意味をもつのです。では、空間はどのような仕組みで認知されるのでしょうか。その仕組みを解明することにより、空間デザインに役立てる考え方について、説明します。 ○第11回 空間分析の最前線 国内外のさまざまな空間論を概説します。空間論の奥深さを実感していただくための講義です。 ○第12回 アントニオ・ガウディとその周辺 一転して、空間のデコレーションが重要な意味をもつ近代建築を紹介することにより、空間的合理性という概念の虚構性について考えます。 ○第13回 監獄の空間 事例としてアウシュビッツ強制収容所を写真等により紹介し、歴史の証人としての建築文化について論じます。 ○第14回 世界風景 世界とはいっても個人的な精神世界のことです。この講義を通して、受講者の皆さんはそれぞれに建築空間デザインについて思いを巡らせたことと思います。個人的な体験を元に、アクションスケープの観点から、自己のもつ空間モティーフをコラージュしてもらい、この講義のまとめとします。 ○第15回 自己点検授業 授業で学習した内容の総括を行い、学生自身に学習達成の程度を自己点検させます。学習目標が達成されているかを、個々の学生の成績評価を示して説明します。 ■関連科目 西洋建築史、日本建築史、近代建築史、建築設計演習3D/UIなど ■受講心得 この講義は、主として建築やインテリアのデザインに興味をもつ学生を対象として行われます。したがって、内外のすぐれた建築空間を事例としてとりあげますが、自らの制作能力を高めるために、単にこれらの事例を知識として知り、その形をなぞるのではなく、各自の建築空間体験に照らしつつ、その意味を自身の言葉で思考し直すことが望まれます。例えば、茶道をたしなむためには、ある程度の作法を身につける必要があるように、建築空間を心から味わうためには、その種の建築にまつわる文化の素養をもっていることが望ましいと思われます。本講義では、さまざまな建築空間を紹介しますが、日頃から自らの空間体験を「文化の系」の中で考えることができるよう心掛けることをお勧めします。 ■課題・質問などの受付方法 解らないことは、かならずその場で解決してほしいと考えています。したがって、原則として質問は授業時間内に受けます。もちろん、e-mailによる質問も受け付けますが、できるだけ直接会ってお話ししましょう。 課題は原則としてe-mailで提出していただきます。 ■授業の形式 世界の様々な建築空間を映像で紹介し、それらに関わるデザイン論を詳説します。毎回、授業の最後に、内容に関わる課題を出します。 ■履修上の注意または履修条件 出席をとる代わりに、略設計やスケッチを要求することがあるので、各自スケッチブック等を用意してください。また、レポート提出に電子メールを活用することがあるので、大学の施設や携帯電話等で使用できるようにしておくことが望ましいです。 ■成績の評価方法 毎回授業の内容に関するレポートを提出してもらいます。したがって、レポートの提出回数(すなわち出席回数)および内容の評価により成績を評価します。 ■参考文献及び指定図書 日本建築学会編『建築・都市計画のための空間学事典』(井上書院)他、毎回の授業の内容に関連する優良図書を紹介します。 |